2014年10月26日日曜日

次回の学習会は10月29日(水曜日)です。


次回の学習会の予定は以下の通りですので、よろしくお願いします。

次回学習会(駒場祭に向けた学習会)

日時:10月29日(水曜日)18:30

場所:キャンパスプラザB312(部室)

※なお、部室(キャンパスプラザB棟)へのアクセスについては、下記のリンク先の地図を参考にしてください。


事前の申し込みは必要ありません。直接、会場(部室)までお越しください。

 内容:社会保障について

(より具体的な内容は、当日に報告者から発表されますので、ご了承ください。)

なお、今後の学習会の際には適宜、学習会後に駒場祭に向けた打ち合わせも行う予定です。)


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 TOSMOSは、現代社会の様々な問題について、その本質を究明し、解決の道筋を考える東京大学の学術文化系サークルです。
 国際情勢、国内情勢、政治、経済、科学、生命倫理など、さまざまなテーマに関して、学習会、読書会、合宿などを通じて理解を深める研究活動をしています。もし多少でも興味がありましたら、一度わたしたちの活動を見学してみませんか?TOSMOSでは現代社会について一緒に研究する新入会員を募集しています。
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 さて、10月21日開催のTOSMOSの学習会に参加の皆様、お疲れ様でした。

 また、報告者の方、詳細な報告、ありがとうございました。テーマは「年金制度改革」についてでしたが、皆様、いかがだったでしょうか。

 以下、当日の報告について簡単なまとめを試みます。

 報告では、まず日本の年金制度の歴史を振り返りました。日本で最初の年金は1875年の軍人恩給制度でした。この制度は性格的には公務員だけに限り、財源も税金によるものでした。1905年には初の民間企業の年金制度として鐘紡共済組合が登場します。加入は任意で、支給額は所得比例によるものでした。本格的な年金制度は1942年の労働者年金保険と1943年の厚生年金保険の創設を待たねばなりませんでした。これにより、保険の対象者を民間企業で働くすべての(男子)労働者に広げられることになりました(厚生年金保険で女子にも拡大)。また、厚生年金の支給額がこれまでの所得に比例して決められていましたが、この制度改革で、定額の支給額がすべての被保険者に適用され、さらに所得比例部分を上乗せするというものへと変更されます(定額+所得比例)。

 そして、1961年には民間労働者だけでなく、農家や自営業者なども保険の対象者として含める制度改革がなされます。国民年金制度の創設で、これをもって「国民皆年金制度制の確立」と言われることがあります。さらに、1973年には物価スライド・賃金スライド導入、1986年には二階建て年金制度よって、国民年金と厚生年金の統合が図られます。厚生年金加入の労働者を含めて、すべての国民に定額の国民年金(基礎年金)を支給するとし、さらに国民年金のうえに所得比例の厚生年金を上乗せするというかたち(二階建て)となります(さらに、そのうえに私的年金を加えれば、三階建てとなります)。2004年にはマクロ経済スライド制へと移行します。以上が、日本の年金制度のおおまかな変遷です。

 つづいて、国民年金制度と厚生年金保険制度との二つの制度に関する基礎知識を確認するという意味で、当日の報告では両制度の具体的中身について詳細に触れました。スペースの都合上省きますが、国民年金制度の財政が、国庫が半分負担(25000億円)、国民年金各号被保険者が基礎年金拠出金として残りの半分を負担するかたち(2004年に、これまでの国庫負担が3分の1から2分の1に変更)になったことを確認したいと思います。

 つづいて、公的年金制度の必要性として、なぜ「公的」であらねばならないのか、その意義が報告されました。その制度発展の背景として、①急速な高齢化の進行(1950年代に5%だった高齢化率が現在では20%を超えており、将来には40%に上昇すると予測されています)、②家族構造の変容(戦後の産業構造の主流が、農業を中心とした第一次産業からサービス業を中心とした第三次産業へと移行するにともなって、従来型の三世代家族から単身・一世代家族へと家族構造が変容します。このため、高齢者を家長である長男が支えるという想定が難しくなりました)、③戦後民主主義(日本国憲法第25条の生存権の規定により、国民の生活水準の維持が国の責務となりました)が挙げられると思われます。

このことから、「老後の備え」としての公的年金制度の重要性が高まっています。もし、公的年金制度がなければ、高齢者は①子どもに支援を求める、②政府の援助を求める、③自助努力(自分の貯蓄や私的年金)に頼るしかなくなりますが、諸事情かから①②が難しい場合、自助努力しか選択肢がなくなります。しかし、個人貯蓄に頼るとしても、ライフサイクル・モデル(合理的な貯蓄計画)という考え方(自分の寿命を予想して、それに見合ったかたちで貯蓄を形成する)の現実性には疑問符が付くなど、長生きするリスクをカバーすることが難しい、という限界もあります。

そもそも公的年金保険と異なり、個人(私的)年金保険は積立方式となっています。これは、「保険」を通じて短命の人が支払った保険料相当額が長命の人への再配分(水平的再配分)される仕組みとなっています。しかし、この保険制度では、物価の変動に対応できないという難点もありますし、たとえ裕福層にとっては貯蓄があるため合理的な老後生活の計画が可能であったとして、低所得層にとっては個人年金保険への加入がそもそも難しく将来の生活の計画が難しいでしょう。総じて、個人年金のみではすべての国民の生活を保障することができず、それだけ公的年金制度の意義は大きいと言えるでしょう。

 では、日本の公的年金制度の特徴を考えていきたいと思います。その特徴としては、①制度への加入が強制的、②年金額あるいは保険料を通じて何らかの所得再配分が行われる(所得再配分機能)、③制度の運営は政府もしくは公的な機関が行う、④各種のスライド制度(賃金スライド、物価スライド)が採用される、⑤年金財政方式として賦課方式あるいは修正積立方式が採用されている、などが挙げられるでしょう。

 さらに、公的年金制度の給付水準の考え方を概観していきましょう。まず給付からみた年金制度は大きく二つに分かれます。確定給付型年金制度と確定拠出型年金制度です。前者は年金支給額をあらかじめ公表する制度ですが、制度変更のたびに支給額の変更を公表する必要があります。後者は保険料の支払い額だけがわかる制度で、被保険者の運用次第で支給額が変化していきます。また、定額年金と所得比例年金があります。保険料支給額が同じ定額年金は、イギリスのべヴァレッジ報告(1942年)をもとに作られた制度となります。一方の所得比例年金は、ドイツのビスマルクによって採用され、ILO条約で採択されています。先述のとおり、日本では一階部分にあたる国民年金が定額年金であり、二階部分にあたる厚生年金が所得比例年金と言えます。つまり、日本は両制度の混合型(ハイブリッド型)と言えるでしょう。さらに、給付を個人単位にすべきか、家族単位にすべきか、支給開始年齢はどうするのかが現在議論されている問題として挙げられます。

 また、年金制度の財政面での仕組みを考えていきましょう。「安定的な財政基盤は年金制度の要」と言えますが、その財政運営には、賦課方式と積立方式があります。一方の賦課方式とは、将来の年金給付に必要な原資を保険料で積み立てる方式です。現在の現役世代の人が払い込んだ保険料を現在の高齢者に支給する仕組みです。これは、現役世代から高齢者への再配分をおこなうものと理解できます。「世代間扶養」とも呼ばれます。他方の積立方式とは年金原資を同時期の現役世代の保険料でまかなう方式です。若い現役世代に払い込んだ保険料を積み立て、老後になって年金を受け取る仕組みです。これは、年齢集団ごとに事前に保険料と年金の金額を決めておく必要があります。   

そして、報告では、両制度の比較をおこなれました。たとえば、予想外の人口・経済変動が生じたときに財政的な影響としては、賦課方式では人口の変動の影響を受けます。日本では少子高齢化により後世代の負担が増加するということが社会問題化しています。他方の積立方式では経済変動の影響を受けることになります。つまり、インフレがあると給付価値が減少してしまうという問題点が生じるのです。

また、いわゆる「二重の負担」問題があります。これは、公的年金制度を賦課方式から積立方式に切り替える場合、切り替え時の現役世代が自らの将来の年金の積み立てに加えて、そのときの受給世代の年金分も負担する必要があるという問題です。

現在、賦課方式から積立方式への切り替えが主張されていますが、アメリカでは当初は積立方式だったのが、世界恐慌の煽りをうけての激しいインフレに耐えかえて1935年には積立方式が行き詰まり、1939年には賦課方式へと移行したという歴史があります。欧米各国の公的年金制度は、積立方式でスタートしたが、上述のような激しいインフレによる積立金の減価などを主因として受給世代への給付原資を十分に確保できなくなっていたために、1950年前後を境として相次いで賦課方式へと移行していったという経緯があります。

ちなみに、先述のとおり、日本では積立方式と賦課方式とを組み合わせた「修正積立方式」となっています。基本的には賦課方式を採用しつつも、年金制度が成熟化(引退世代の人口の比率が高まったのち高位安定すること)していないときに徴収する保険料の一部を積み立てておき、制度が成熟化したときに給付の一部を積立分であてるという仕組みです。好意的に受けとめれば、両者の利点を取り入れ、両者の欠点を補う仕組みになっているとも言えるかもしれませんが、一方で公的年金制度に対する加入者の関与と責任を曖昧に、問題を複雑化する一因となったとの指摘もあります。現在日本では、少子高齢化により、積立方式導入論が主張されています。

さて、最後に近年の日本における年金制度改革論を概観していきたいと思います。報告では八つの論点が挙げられました。若干のコメントを付して、触れたいと思います。すなわち、

①給付水準引き下げ・支給開始年齢引き上げ論

②積立方式導入論
⇒これは、前述のとおり、いわゆる「二重の負担」問題があります。

③厚生年金民営化論
⇒これは、民営化により経営破綻のおそれもあります。

④基礎年金の税財源化論
⇒これは、給付のためにミーンズテスト〔資力調査〕の必要が生じて、スティグマ〔恥辱感〕の問題が発生します。また、仮に消費税を財源にあてた場合、所得の違いに応じて負担が異なるという問題が生じます。累進的な課税が現実的なのかもしれません。

⑤公的年金一元化論
⇒これは、国民年金と厚生年金とを一体化するものですが、国民年金の加入者である農家・自営業者の収入の把握が難しいという問題や、定額から所得比例方式にした場合に保険料も給付額も確定しにくいという問題などが生じます。

⑥第三号被保険者問題
⇒これは、サラリーマンの妻で専業主婦などで構成される第三号被保険者と、夫婦ともに厚生年金の保険料を払う共働き世帯や夫婦とも国民年金の保険料を支払う自営業世帯との間での不公平の問題です。

⑦パート・派遣労働者の厚生年金保険適用問題

⑧ライフスタイルに対し中立的な年金制度

総じて、私(飯島)は報告者からの報告を聞きながら、国の責任の所在は明確にするという意味からも、「老後の備え」は基本的に公的年金制度であるべきだと考えました。皆さんはいかがお考えでしょうか。今後も、TOSMOSでも年金制度のあるべき姿を議論しつつ、考えていきたいと思います。

 
【文責:飯島】