2012年10月15日月曜日

次回の学習会は10月19日(金曜日)です

 10月10日に催された現代社会研究会(現社研)の学習会に参加された会員の皆さん、お疲れ様でした。今回は他大学からの見学者があり、より充実した中味のある討論ができたのではないでしょうか。今回のテーマは「安楽死」でした。以下、当日の学習会の模様を簡単に触れます。

当日の報告では、「安楽死問題を考えるセミナー」と題する「架空」ディスカッションを作り上げることによって、「安楽死問題」を多方面から照らし出す試みがおこなわれました。ここで、「架空」ディスカッションとは、自由主義者・生命倫理学者・法学者・哲学者・財務官僚・歴史学者・若医者・老医者・論理学者・保守主義者・政治学者などなど、多彩な顔ぶれで構成され、各方面の立場から見た場合に「安楽死問題」がどのような論理的帰結となるのかを、あぶり出していくものでした。このような試みは興味深く、そして成功していたと、わたしは考えます。

そして、この報告を受けて、様々なことが議論されました。たとえば、現社研の今年の秋合宿でも議論となりましたが、安楽死と尊厳死の違いについても、あらためて取り上げられました。すなわち、安楽死(euthanasia)という言葉が、「不治」かつ「末期」で「耐え難い苦痛」を伴う疾患の患者の求めに応じ、医師などが積極的に患者を死に至らしめることを指しますが、他方で尊厳死という言葉が、消極的安楽死に近い意味で使用され、「人間としての尊厳」を守るために激痛の拒否、思考や判断を失っての人工生命維持装置の拒否といった「無意味な延命治療をしないで死に至る」というニュアンスを含んでいると考えられます。

しかしながら、「安楽死の定義はない」(保阪正康)と言われるように、安楽死と尊厳死との間に明確な線引きは難しいようです。そのことは、安楽死は問題だが、尊厳死ならば積極的に認めていこうという流れにも大きな影を落としているのではないでしょうか。周知のように、安楽死肯定論を展開していた太田典礼らが率いる日本安楽死協会は1978年(昭和53年)に日本尊厳死協会に改称しましたが、「death with dignity」の訳語として、プラスイメージを含む日本語である「尊厳()」という言葉を使うことが、事態を正確に言い当てているかどうか、議論もあるでしょう。それはまた、「尊厳死」というラベリングによって、個人の死生観が悪用されるなど、一人歩きをしていく危険性もあることを意味しています。暗に自殺の奨励となり、安楽死が安楽「殺」となるような事態を懸念するわけです。このような消極的安楽死の正当化の過程において、「患者の意思尊重」の名目のもとに、逆説的ですが、「当事者の不在」という問題が起きていないか、その検証が必要だという意見も出されました。
 
さらに当日は、この種の議論で必ず言及される、オランダの安楽死法の事例についても、合意形成に問題はなかったか、話し合われました。世界においても日本においても、はたして、ナチス・ドイツに象徴されるような、優生学的な思考が悪い意味で受け継がれてしまってはいないかとの疑念が出されました。その点に関連して、(人工妊娠)中絶の是非にまで議論は及びました。日本でも中絶をめぐる法律は、戦時中の「国民優生法(断種法)」(1940年施行)が戦後直後の「優生保護法」(1948年施行)に変わり、近年の「母体保護法」(1996年施行)へと至りましたが、この動きの背景には、「安楽死」問題と同様に、優生学的な思考があったのではないかとの疑念も出されました。出生前診断の技術精度の高度化とも絡み、「母親の自己決定権」はどこまで正当化できるのかという問題が発生しています(同時に中絶は父親である男性にとっても考えるべき問題であるでしょう)。その議論は「自己決定権」は「死」にまで適用できるのかどうか、という問題と結びついていると思います。悩ましい問題だけに今後も議論していきたいです。

「安楽死問題」は、現社研における今年の駒場祭の公開発表のテーマでもありますので、引き続き取り組んでいきましょう。

さて、次回日程(駒場祭に向けた学習会)のお知らせです。学習会のテーマは、前回の学習会に引き続き、「安楽死問題」です。先述のとおり、当サークルの駒場祭企画のテーマでもあります。駒場祭まで時間が迫ってきています。皆様の奮ってのご参加をよろしくお願いします。

【次回の学習会】

〇日時:10月19日(金曜日)18:30~

〇場所:キャンパスプラザB312(部室)

〇テーマ:安楽死問題

〇参加費:無料

 
なお、次々回の日程等も決まりましたので、あわせてお知らせいたします(以下は次回〔10月19日〕の日程ではありませんので、ご注意ください。)

【次々回の学習会】

〇日時:10月22日(月曜日)18:30〜

〇場所:キャンパスプラザB312

〇テーマ:安楽死問題

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【文責:飯島】