2012年7月2日月曜日

6月20日の学習会はお疲れ様でした


東大現代社会研究会(現社研)の皆さん、6月20日の学習会はお疲れ様でした。テーマは「消費税について検証する」でしたが、報告者は大量の新聞記事のフォローなど大変だったと思います。お疲れ様でした。学習会から2週間ほど経過しましたが、以下で、報告者のレジュメを参考に簡単なまとめをします。また、当ブログへのアップが遅くなったことを陳謝します。

報告は、まず世界における付加価値税の歴史を繙き、日本における消費税導入(1989年)はなにをモデルにしたのかを確認しました。そして、仕入れ税額控除とはなにか、消費者の納税義務者は誰なのか、消費税の価格転嫁の実態はどうなっているのか、など日本の消費税の仕組みを勉強しました。これに関連して、事業者にとっての消費税の影響をめぐって、「益税」「損税」の発生、免税点引き下げ(2004年)による小規模事業者への影響、免税事業者の仕入れ時における消費税負担の問題などにも、報告者は目を配りました。総じて、低所得者(消費者)だけでなく、消費税の納税義務者である中小の事業者にとっても大企業と比して不利となる、消費税のカラクリを明らかにしようと報告者は試みました。

さらに、病院などの医療施設や介護施設などでは制度上、価格に消費税を転嫁できず、自己負担を余儀なくされる問題を取り上げました。つまり、患者が支う「診療報酬」に基づいて計算するので、病院が勝手に値上げできないにもかかわらず、病院で使うガーゼや注射器などの医療品、医療機器を病院側が買う時には消費税がかかってしまうのです。

また、輸出企業(大企業)にとっては、消費税が事実上の「補助金」機能を果たしてしまう問題も取り上げました。つまり、大企業が輸出企業の場合、外国である輸出先から消費税を受け取ることができないため、政府は輸出企業に対して、部品などの仕入れ時に支払った消費税を還付(払い戻し)する制度をつくっています。しかし、輸出企業は下請企業から部品などを仕入れるとき、元請けと下請けとの間の力関係から、その下請企業に対して消費税分を支払わない場合が多々ある。にもかかわらず、消費税分を形式上支払ったものとみなされ、輸出企業は政府から還付を受けとっているのです。事実上の輸出「補助金」として機能しているのです。

その他、消費税のもたらす諸問題として以下が挙げられます。(1)所得が上昇するにつれて負担額の割合が低下するという逆進性の性格の強い消費税は、低所得者に重く、所得の上昇に伴って負担額の割合が低下してしまいます。(2)消費税は、国税のあらゆる税目の中で、最も滞納が多い税金です。(3)消費税は正規雇用から派遣雇用に切り替えると合法的に消費税が節税できる仕組みのため、経営者は雇用形態を正規から派遣へと切り替えるインセンティブが働いてしまいます。(4)消費税増税が景気にもたらす影響が大きい、などです。

消費税増税法案成立にむけて、与党である民主党と野党である自民・公明両党との間で修正協議がおこなわれています(6月20日現在)。政府案では2014年4月から税率を8%に、2015年10月から税率を10%に引き上げるとしていますが、8%段階では簡素な給付措置か軽減税率を、10%段階では給付付き税額控除か軽減税率を検討しています。これによって、食料品、衣料品や医療品など生活必需品に限り税率を特別に低く抑える措置をおこなおうことも検討されています。また、「景気条項」については増税の条件ではなく努力目標に、所得税・法人税の最高税率の引き上げは先送りとなり、高所得者の基礎年金の最大で半分減税は法案から削除されました。今後、与野党間でそのような修正がなされるのか、国会情勢を引き続き注目していきたいですね。

巷で「消費税増税は本当に必要なのか」と問えば、「ギリシャの二の舞になってもよいのか」「社会保障のために必要だ」という返事が必ず返ってくるのではないでしょうか。しかし、税収不足が年40〜50兆円であるのに対して、消費税率5%アップによる増収が単純計算で年12兆円。焼け石に水の感は否めません。税収(歳入)が少ないから消費税を増税するという姿勢は安直すぎです。税金は政府のためにあるのではなく、あくまで税金を払っている、その社会に住む人々のためにあります。「税制を見ればその国の姿がわかる」とも言われるように、税制は人々の生活や意識そのものを表現しています。

また、増税の中味が消費税だけである点にも違和感を覚えます。つまり、所得税・住民税・法人税・相続税など他の税制とのバランスはどうあるべきなのかという点にまで視野にいれて論じなければ、本当の意味でこれからの日本の税制を語ったことにはなりません。忘れてはならないのは、われわれ主権者は税金を支払うことによって、「われわれはどんな社会で生活していきたいか」ということに関する意思表示をしていることです。たしかに、野田政権は「税と社会保障の一体改革」を謳っていますが、増税論議のみが盛んで、社会保障の議論が手薄になっている印象は否めません。

いずれにせよ、「消費税増税は仕方がない」と思考停止をして無批判に受け入れるのではなく、「われわれはどんな社会に住みたいのか」という主体的な問いを持ちつつ、今回の消費税増税法案の動向を注視して、あるべき税制やあるべき社会を模索していく姿勢が求められているのではないでしょうか。現社研として今後とも考えていきたいテーマですね。


【文責:飯島】