2012年5月28日月曜日

次回の読書会は6月1日(金曜日)です


東大現代社会研究会(現社研)の皆さん、5月23日の学習会はお疲れ様でした。テーマは「EU(欧州連合)について検討する」でしたが、経済的側面からの考察と、政治的側面からの考察というかたちで、EUの現在(いま)を多面的に検証することができたと思います。報告者のお二人、お疲れ様でした。素晴らしい報告だったと思います。以下で、報告者のレジュメなどを参考に簡単なまとめを試みます。

EUの歩みは、どちらかといえば経済的な統合(市場統合)を優先し、政治的な統合を後回しにしてきた感があります。言うまでもなく、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)を起源とすることからも、ヨーロッパ諸国(特にフランスとドイツ)の資源ナショナリズムをいかに抑制していくのかという問題意識がEU当事者の姿勢から伺えます。その点ではEUは当初の目的を達したといえるかもしれません。ただし、EU自身によるEU内外の経済途上地域に対する「新植民地主義」(形式的には主権を尊重しながらも,実質的には経済的搾取を維持・強化する支配体系)の存在を指摘する声もありますが。

しかし、ここにきて、政治的な統合の遅れが問題化しているのではないでしょうか。「人、物、資本」の移動の自由を優先させてきた結果、出身国や言語などに対する帰属意識の高まりが、たとえばフランスの極右政党・国民戦線の躍進などとして表面化しているのでしょう。この点に関して、当日の学習会の場では、具体的に移民政策などに象徴される諸問題を取り上げて議論しました。キリスト教圏のヨーロッパにイスラム系移民の大量流入が宗教上の確執を生むと同時に、「職を移民に奪われるのではないか」という経済面での危機感や不満をも生んでいます。

また、EUは、運営上の手続きにおける民主的な公正さやEUを構成する国家の主体性などについて再検討する必要に迫られています。にもかかわらず、「EUに加盟したい国家が後を絶たないのはなぜか?」という問いが成り立つように、EUは今後も地理的にも膨張し続けていくことが予想されます。その行き着く先はどこか。この点に関して、当日の学習会では、具体例として、トルコのEU加盟の動きの問題点を取り上げて議論をしました。政治面では政教分離を伝統としながらも多くのイスラム教徒を抱え、人口が7000万人に及び(ちなみに、ドイツは8000万人、フランス・イギリス6000万人、イタリア5800万人)、農業人口が相対的に高い(29% なおEU平均は10%)トルコがEUに加盟することは、それ自体、EUにとって一つの“挑戦”と言えるかもしれません。

総じていえば、いまEUは、近代以来の<国民国家>を脱却して、欧州全体の超国家的な(国家という枠組みを超えた)統合へと乗り出すという、未知の領域あるいは壮大な実験へと歩み出しているといえるでしょう。EUのこれまでの歩みを肯定した場合であっても、政治的な統合に至るにはまだまだ様々な修正・改善が必要であり、前途は多難であるという点では一致するところでしょう。リーマンショックやギリシャ財政危機などの経済危機に見舞われているEUですが、たとえそれらを克服できたとしても、将来的に周期的に不況が襲ってくることが予想されるのであり、今後のEUがそれらのリスクに耐えうるのか。今後のEUの動向にも注目していきたいですね。

さて、5月のお題は「国際関係」ですが、そのお題に沿ったかたちで、次回はイマニュエル・カントの『永遠平和のために』をテキストに選び読書会をおこないます。以下が詳細です(なお、5月のお題「国際関係」は最後となります。次々会からは6月のお題である「国内政治」へと移ります)。「読書会」では、参加者はあらかじめ指定された文献(ここでは、カントの『永遠平和のために』)を事前に読んできたうえで、参加に臨みます。その点で、与えられたテーマに従って報告者が様々な文献・資料を調べて報告する形式の「学習会」とは異なります。指定文献については、書店もしくは図書館で事前に入手してください。なお、当日は、報告者が要約レジュメを作成・報告し、その後に参加者みんなで議論します。ただし、諸事情により、指定文献を読むことができなかった場合にも参加はもちろん可能です。奮っての参加をよろしくお願いいたします。

なお、カントの『永遠平和のために』はおおよそ次のような内容です。すなわち、世界の恒久的平和はいかにもたらされるべきか。常備軍の全廃、諸国家の民主化、国際連合の創設などの具体的な提起を行い、人類の最高善=永遠平和の実現をめざすなどです。平和論の古典といえるでしょう。
 

〇指定文献:カント『永遠平和のために』
※岩波文庫版(宇都宮芳明訳)、光文社古典新訳文庫(中山元訳)、総合社版(池内紀訳)など、翻訳は多数あります。
日時:6月1日()18:30〜
場所:キャンパスプラザB312(現社研の部室 キャンパスプラザB棟3階)

〇参加費:無料(ただし、指定文献を購入する場合には書籍代は自己負担となります)
 
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 4月の新入生歓迎イベントは終了しましたが、引き続き新入会員を募集しております。一年生の方や、初めてこのブログを読んで関心を持った方など、ご自由にご参加ください。当サークルの日頃の活動の雰囲気を知りたいという方の飛び入り参加も大歓迎です。事前の登録等も必要ありません。途中入退出も自由です。お気軽に、部室にお越しください。なお、部室の場所がわからない場合には現社研のホームページ上にある連絡先にメールをしていただきますよう、お願いします。

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【文責:飯島】