2009年11月7日土曜日

11月6日(金曜日)の学習会を終えて

衆議院の比例定数削減はなにを意味するのか?

 当日は、弁護士の坂本修氏著の『衆議院 比例定数削減とは何か』(新協出版社)の学習会をおこなった。発行が2009年10月24日であり、政権交代後の動向を見据えるうえで、時機を得たブックレットである。

 現在、政権についた民主党は、衆議院の比例代表定数を現在の480議席から80議席を減らそうと考えている。

 しかし、坂本氏は「〔比例定数削減した場合〕、今回の各党の比例での得票率で推計すれば『二大政党』が69%前後の得票で92%前後の議席を独占、その他の党は合計得票率31%前後で議席占有率はわずかに8%、日本共産党は4議席、社民党は比例ではゼロ」となるだろうと予測する。

 つまり、比例定数を削減すればするほど、「死票の山」がどんどん増えるわけである。

 坂本氏の言葉を借りれば、「虚構の多数」議席と「虚構の少数」議席の出現という事態となる。たとえば、スウェーデン型の完全比例代表制を参考にすれば、

★「虚構の議席数」の場合(今回の総選挙の結果) 
民主党308/自民党119/公明党21/共産党9/社民党7/みんな5/国民新党3 

★「本来の議席数」の場合(完全比例代表制・スウェーデン型)
民主党204/自民党128/公明党55/共産党34/社民党21/みんな21/国民新党8

 という数字が弾きだされるという。

 以上の結果から、比例定数を削減することは、「民意と議席の“ねじれ”」が生じることを意味する。そればかりではない。憲法上の問題も生じる。すなわち、「基本的人権である平等な参政権(投票権)の重大な侵害」である。「前文」にもある憲法の三大原理のひとつである「基本的人権」は大きく四つに分かれる。そのなかのひとつに「参政権」がある(そのほかは、国務請求権・社会権・自由権)。

 いうまでもなく、「参政権」とは、国民の国政に参加する権利をいう。選挙権、被選挙権、国民投票や国民審査で投票する権利などを指し、憲法第15条と、「前文」の「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、」と、明記されている。坂本氏は上述の「本来の議席数」こそが、憲法前文の精神と憲法15条に則(のっと)ったものだといえる。

 しかし、「比例定数を削減したら、一票の価値の格差はさらに極端になってしまうことは必至である。このことは、基本的人権の重大な侵害があり、憲法と民主主義に反する市民的常識からいってもあまりにも不公正かつ不合理である」との指弾する。

 かつて、衆議院選挙制度は1947年以来、一選挙区定数3~5の中選挙区の、坂本氏がいうところの「準比例代表制」であった。しかし、15年前に選挙法が改正された。当時、「改正」派は、「カネのかからない政治のための改革」・「政権交代で国民の意思が反映する政治」などのスローガンを掲げ、小選挙区250、比例250の並立制で、比例で少数政党支持など多様な民意を反映できる制度だとして提案し、「非自民」の細川護煕内閣の高支持率という背景にして、マスコミを全面的に取りこんで、その批判者を「守旧派」とする大キャンペーンを展開したうえで、「改正」を成し遂げようとした。一言で言えば、選挙制度の改正が、金権腐敗政治がなくなる「決め手」だとされたのである。

 たしかに、3議席の中選挙区の場合には、自民党2議席/社会党1議席と想定した場合、その2議席を巡って、自民党候補同士の熾烈なバラマキ選挙がおこなわれて、自民党内の派閥争いが生じていたからという事情もあった。しかし、それは単に自民党内の事情である。政治資金の規制をおこなえば済むことである。

 坂本氏は、「〔当時は、〕政治腐敗防止のための『政治改革』賛成は、50%を超えていましたが、選挙制度を変える(変えた方がいい)とするのは2割に達しなかった」と指摘する。しかし、現実には、「金権腐敗政治からの脱却」がいつの間にか「選挙制度の改革」へとすりかわってしまった。

 そこで、細川護煕内閣の与党であった社会党の参議院議員の一部(17名が反対、ほかに欠席・棄権3名)が反造することとなる。つまり、1994年1月21日、参議院で12票差で否決参議院では12票差で政治改革関連四法案は否決されたのである。しかし、そこで、坂本氏のいう「ルール違反のドンデン返し」がおきる。細川護煕首相・河野洋平自民党総裁によるトップ会談が行われ、「密室談合」での「総・総協定」が成立し、議会制民主主義のルールに反する違憲、違法のやり方であった。坂本氏はこれを「“立法クーデター”というべき暴挙」と名づける。
 
 ならば、坂本氏はどのような選挙制度が好ましいと考えているのか。坂本氏は「国民にとって、不幸な状態をただすにためには、憲法に反し、議会制民主主義に反する現行の小選挙区制を民意を可能な限り正しく反映する制度に改善すべきなのです。それこそが国民のための眞の政治改革であり、憲法をこの国に活かすことなのです」と述べる。具体的な例を挙げれば、「①11ブロック単位比例体表制)②政党助成金制度の廃止・企業献金の禁止。ただし、ブロック別ではない完全比例代表制、定数格差是正をきちんとしたうえでの5議席前後の中選挙区制もありうる」としている。
 
 また、「政党助成法」にも批判の目を向ける。すなわち、政党助成金の正体を、「政党『劣化』の麻薬」だと坂本氏は喝破する。現在、約320億円の「カネ」が政党助成金として、日本共産党を除く各政党に流し込まれている(内訳は、2007年度で自民党約157億円、民主党118億円、公明党27億円、社民党9億円)。

 坂本氏はいう。「有権者、つまり国民から離れて、カネを国から渡されて生きている政党は、政党本来の役割を果たす基礎的な『体力』や“志”を失い、その行き着く先が『国定政党』・『国策政党』になる危険がある」。それは、「政党は、主権者である国民のさまざまな要求・権利の実現をめざして、その目的実現のために自由に組織し、国民とともに自由闊達に活動できる存在でなければならない」。具体的には、「結社の自由」(憲法第二一条第一項)にも関連してくる事柄でもある。

 さらに、財界の影響力にも目を向ける必要がある。つまり、温存された企業献金の存在である。政治資金規正法の「改正」も、「個人の献金はダメだけれども、政党本部や政党支部ならよい」というものであり、「制度設計そのものが尻抜け」だと坂本氏は指摘する。 

 このことは、「カネ」で政党を操るということを意味している。詳しくは、日本経団連「わが国の基本問題を考える ~これからの日本を展望して~」(当ブログの10月22日付の書き込みをお読みください)を参照されたいが、財界は憲法第九条第2項と第96条(憲法の改正)の改正を明確に主張している。

 坂本氏によると、「労働のルールを破壊し、大もうけをし、その一方で特権的減税をさせて手に入れた『カネ』で政治を操る。07年度の財界大企業の自民党への『表』の献金は29億円、民主党へのそれは8300万円」である。そのような事態は、日本経団連の、改憲に向けた提言から鑑みれば、まさしく「カネ」で「憲法を買う」ことを意味するのではないだろうか。
                                       【文責:飯島】